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函館工業高等専門学校5年 Nさん 

2026年3月18日~3月21日 実習感想

酪農に関わる人たちの話を聞きたい、現場を見たい。そう思って申し込んだコンクールで優秀賞をいただき、副賞として北海道・帯広での酪農研修に参加する機会をいただきました。

私はこれまで、酪農の脱脂粉乳在庫問題の解決を目指すビジネスプロジェクト「COWNECT」のリーダーとして活動してきました。データや資料の上では酪農の課題を理解しているつもりでいましたが、この4日間で、自分がいかに「知らなかった」かを思い知らされました。牛と向き合い、さまざまな立場の方々と話す中で、生乳1kg数百円という小さな単位の向こう側に、どれだけ多くの人の仕事と思いが積み重なっているかを、体ごと感じた研修でした。

函館を朝に出発して、帯広に着いたのは昼過ぎのことでした。全農の担当者の方に車で牧場まで送っていただいたのですが、その道中の会話が、この研修の出発点として印象に残りました。その方は普段、生乳の供給量に応じて用途先を調整するお仕事をされているとのことでした。私がCOWNECTで目指していたこと、つまり生乳の需給バランスをどうにかしたいという思いを、もうずっと前から最前線でやり続けている方でした。

昨年ヒットした抹茶ラテの商品一つ、ヨーグルトの商品一つで、需要は大きく動いてしまうのだと聞いたとき、飲食品の世界の難しさを改めて感じました。消費者の好みという予測しきれない波を相手にしながら、それでも「生乳は絶対に捨てない」というポリシーのもと、消費までの責任を持ち続けているその姿勢に、尊さのようなものを感じました。自分がプロジェクトの中で「解決したい」と言葉にしてきた問題が、すでに現実の重さを持って動いているのだということを、最初の車の中で早くも実感しました。

牧場に着いてマドリンさんと挨拶を交わすと、早速酪農体験が始まりました。最初に任されたのは、前日に生まれたばかりの子牛の散歩でした。逆子で生まれてしまって足が弱く、獣医さんの提案で毎日歩かせる必要があるとのことでした。小さい牛とはいえ、最初はとても怖かったです。予測できない動きをするたびに、どうやって制せばいいのかもわからなくて、ただ必死についていくだけでした。

搾乳の作業では、搾乳牛のあまりの大きさに、自分よりも大きな生き物の近くに行くことを、どこか生存本能的に拒否しているような感覚がありました。搾乳は手で数回絞ってから殺菌タオルで拭き、機械を乳頭に取り付けるという手順で行いました。他にも、排泄物の掃除や藁の整え、餌を均一に配る作業もありました。朝の搾乳では寝藁の交換もあり、これが一番体力的にきつかったです。

しかし、続けていくうちに、牛にも性格があって、いつもこちらをじっと見てくれる穏やかな牛もいることがわかり、だんだんと心を落ち着かせて作業できるようになりました。子牛の散歩も毎日繰り返すうちに、子牛が自分の後ろをついてきてくれるようになり、最初の怖さが嘘のように思えました。その夜、マドリンさんとご飯を食べながら、就農の経緯や自分の研究のことをゆっくり話せました。実家が酪農家であっても、それぞれの人生があって、子どもが必ずしも継ぐわけではないのだということを、当たり前のことながら実感しました。

翌朝は早起きして作業でした。眠たい目をこすりながら牛舎に向かいました。この日は、広尾で地域おこし協力隊として活動している方が、搾乳の補助に来てくれていました。毎日違う酪農家のところを回ってお手伝いをしているとのことで、その働き方や現状についていろいろ聞かせてもらいました。

地域おこし協力隊と聞くと、地域資源を活かしたスモールビジネスで人を巻き込んでいく、お祭りのような活性化のイメージを持っていました。でも実際に地域の方が求めているのは、協力隊の任期が終わったあとも、その街で継続して貢献してくれる人なのだと知りました。新しいもの好きな人が外から来て、アイデアを持ち込んで盛り上げても、その人がいなくなったとたんに元に戻ってしまうのでは、本当の意味での活性化とは言えないのだろうと思いました。

もし自分が地域おこし協力隊だったら、自分がいなくなっても地域が動き続けるような仕組みをつくりたいと思います。それができて初めて「活性化した」と言えるのだと感じました。短期的にも長期的にも、地域にも住む人にも、バランスよく働きかけ続けることの難しさを感じました。

昼には暑熱フォーラムというイベントに参加して、研究者や酪農家の方々の話を聞きました。酪農の生産力は頭数と一頭あたりの乳量で決まりますが、その最適解は地域によっても牧場によっても違い、時間とともに変わっていきます。気候、牛舎の設備、餌の種類、換気の方法、それらすべてが絡み合う中で、費用対効果の高い判断を常に求められる酪農家さんの仕事の大きさを改めて感じました。

帰り道、農協で融資を担当されている方に車で送っていただきました。経営不振による離農を提案することもあるというお仕事で、家族経営の酪農家さんは当たり前に酪農を見てきたぶん、経営判断のタイミングを見失いやすいのだと聞いて、胸に重いものが残りました。生産の現場だけでなく、経営という側面からも、酪農を支えている人がいることを知りました。

この日の作業中、子牛に名前をつけていいよと言っていただいたので、おでこの黒い模様が初心者マークに見えたことから「ビギナー」と名づけました。夜はジンギスカンをごちそうになりながら、牧場での時間がだんだんと日常のリズムになってきたことを感じました。

三日目の昼には、マドリンさんがパーソナリティを務めるラジオに、ゲストとして収録に参加しました。質問に答えながら自分のことを話していくうちに、なぜ自分がCOWNECTをやっていたのか、何が好きで、何を大切にしてきたのかが改めて整理されていくような感覚がありました。時間が流れると、その時の思いも一緒に薄れてしまうものですが、対話を通じてもう一度自分という人間を知る機会になりました。

録音された自分の声を聞いてみると、意外とちゃんと意見を持って伝えられているんだなと気づきました。今まで自分の発言に自信が持てず、考えすぎてしまうことが多かったのですが、自信を持って話すことの大切さを、このラジオ収録を通して実感しました。

その後、牧場への帰り道でHACCPの話を聞かせてもらいました。HACCPとは食品製造における衛生管理の認定制度ですが、全行程を記録・管理するその仕組みが、同時に経営改善の判断材料としても機能しているということが、とても面白かったです。高専で食品衛生管理学を学んでいたので、それが実際の現場でこういう形で活きているのを見られたことが嬉しかったです。

また、地域の企業が長く生き残っていくためのカギは、酪農家さんへの「点」ではなく「面」での支援にあるというお話も印象的でした。自社商品だけを売るのではなく、他社商品も含めてできることを酪農家さんに提供し続ける姿勢こそが、長く信頼される理由なのだと知りました。

最終日の朝、作業を終えて荷物をまとめ、バスと電車を乗り継いで函館へ帰りました。最後にマドリンさんから「よかったらまた来ていいよ」と言っていただいたことが、とても温かく胸に残りました。そして、ビギナーとのお別れが一番悲しかったです。

この4日間で、1kgあたり数百円ほどの生乳が、たくさんの人の手と仕事を経て消費者のもとに届いているということを、頭ではなく体で理解できた気がしました。全農の方、地域おこし協力隊の方、農協の方、フォーラムの研究者の方、そしてマドリンさん。それぞれがまったく異なる立場から、酪農という産業を支えていました。私が大好きなさけるチーズも、自分が搾った牛乳から作られているのだと知ったときの、あのやりがいの感覚は忘れられません。

COWNECTで課題に向き合っていたときには見えていなかった景色が、この研修でたくさん見えました。酪農の現場を知ることは、課題を解決したいという気持ちをより確かなものにしてくれましたし、同時に、その難しさと面白さも教えてくれました。

酪農の夢コンクールへの応募が、こんなにも豊かな時間につながるとは思っていませんでした。全農の皆さん、マドリンさん、そして出会ったすべての方々に、心から感謝しています。ありがとうございました。

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