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北海道大学 大学院2年 Mさん

2024年2月7日~15日 実習感想

 8月6日から11日までの6日間、株式会社マドリンで酪農体験をした。マドリンさんの牧場に来たのは今回が2回目で、昨秋に1度、朝の作業を手伝わせていただいたことがある。慣れない搾乳の作業では牛に蹴られそうになったり、牛が糞をする溝に足を滑らせたりして、「なんだこの大変な作業は!」と感じた記憶がある。しかし、活き活きとしているマドリンさんを見て酪農家という職業に興味がわいた。たった半日体験するだけでは分からないこともあると思い、今夏は1週間手伝いをさせていただくことにした。非常に充実した1週間となったが、その中で特に印象的だったことを3つ書きたい。

 まず1つめは、ちゃんと体力仕事だったことである。もちろん、イメージに反してというよりはイメージどおりであったが、最近はほとんど体を動かさない生活だったために、余計に「体を動かしている」という感覚が強調された。朝は5時から、昼は15時半から、餌と糞の掃除、搾乳、寝わらの用意、子牛の世話などを中心に作業を行った。作業はたいてい、3~4時間かかった。搾乳や子牛の世話では立ち座りが多く、掃除や寝わらの用意では、腕、背中、足まで全身の筋肉を使って作業をした。一番大変だったのは、30℃近い気温の日に子牛の寝床を4カ所掃除したときである。暑さ、作業量、腰への負担で心が折れそうになったが、一緒に作業をした友人と励まし合いながらなんとか作業を終えることができた。体験した限りでも体力仕事だと感じたが、普段は作業をする人数が少なく、さらに冬季には雪かきから始めなければならないそうだ。これが毎日休まず続くとなると、想像するだけでも酪農家という仕事が体力的に大変だということが分かった。しかし、体験中の日々の作業には充実感があった。最初は、体を動かして働いていることによる疲労感が充実感につながっているのではないかと感じていた。たしかに、体を動かしているので気分が良いし、ご飯はおいしいし、夜はよく眠れた。だが、同じように体を動かして働いたことがある他業種アルバイトの経験では得られなかった充実感があるような気がした。それは、自分の作業のひとつひとつが誰かの食につながっていると作業中に感じられたこと、またその感覚が、自身の食に対する価値観を肯定していたことによって、その作業に時間を費やしていることに納得できたことが充実感につながっているのではないかと考えられた。この体験をする前から、農業従事者が農業に対して上記のようなモチベーションを持っているという知識はあったような気がするが、自分の感情として感じられたことで、今後、ふとしたときの自分の考えや意見に影響を与えていく知識になったのではないかと思う。

 次に2つめは、農林水産省の職員の方と広尾町の酪農家の方々で行われた、組合員学習会に参加させていただいたことである。主に生乳の生産調整に関して農水省職員から説明が行われ、酪農家側が質問するという形であった。酪農家の方々がどのような想いで説明を聞いていたかは分からないが、緊張感を持って穏やかに会は終わったと感じた。話を聞いて、酪農の厳しい状況は市場や貿易が絡み、一人一人の酪農家がどうこうできる範囲にはないことが分かった。酪農家にとって、現状はしょうがないことだと受け入れる以外に方法はなく、彼らの中には諦めもあるように私には見えた。一方でそのどうしようもなさから、農水省の職員の方々には厳しい目が向けられているようにも感じ、その点で緊張感があった。会を通して、酪農家の仕事は、実作業の大変さだけではなく、取り巻く状況がさまざまに変化する中で経営を守っていかなければならない、経営主としての大変さがあることが分かった。また、その他に、会に参加する酪農家の方々はほとんどが男性である中で、マドリンさんが毅然と参加されている姿が印象的であった。私がマドリンさんの存在を初めて知ったときは既にメディアに何度も取り上げられている方だったので、女性の酪農経営主として紹介されていることを当たり前のように見ていたけれど、今回の会でマドリンさんがやりやすいとは言えないであろう世界で頑張ってきたんだということを目の当たりにして、かっこいいと思った。

 最後に3つめは、牛の出産に立ち会ったことである。自分はペットを飼ったこともないため、そもそも哺乳類に触れる機会が少なく、ましてや出産を見たのは初めてであった。だからこそ、新鮮で奇妙な出来事として印象に残った。そわそわする母牛をしばらく見守って、最終的には母牛の体の中に手を入れて子牛が出てくるのを手伝った。母牛の体の中は生暖かく柔らかくて、自分が触れていいものなのか分からないような不思議な感触であった。生まれてきた子牛を洗う手伝いもしたが、触る強さ加減が分からず、怖いと感じた。生まれたての子牛の見た目はほとんど犬のようだった。自分の経験上、あの大きさ、あの形の動物で見慣れているものが犬だっただけであるが、目の前の動物も犬と大差ない動物なのだと認識した。ふと、普段はこの目の前の動物の乳を飲んだり、肉を食べたりしているのだと考えたとき、犬の肉を食べることを想像するときのような不快感があり、その直後は牛乳を飲むことが少しためらわれた。この経験を通して、普段食べたり飲んだりしているものがどこから来ているのかについて、知識として学んではきたけれど、食べることと、生産の場が感覚的につながっていなかったのではないかと感じた。または、つながりの解像度が低かったのではないかと反省した。1日もたてば、これまでどおり牛乳をおいしく飲めるようになり、感情の部分は一瞬だったが、以前と比べて、スーパーで牛乳に手を伸ばすときに、生産の場を想像できる頻度が高くなったのではないかと思う。

 6日間の体験では、体力仕事に加えて新しいものを見聞きすることにエネルギーをたくさん使ったけれど、マドリンさんの明るさやはつらつとした雰囲気に助けられて毎日取り組むことができた。また今回の機会を通して、これまで大学で学んだことや、テレビ、雑誌、新聞で見聞きして知ったような気になっていたことを、改めてこういうことだったのかと認識することができ、自分の感情をのせて深く刻むことができたのではないかと思う。1週間で私が感じたことと、マドリンさん含む酪農家の方々が普段感じていることはまた違うのではないかと思うが、その更新も含めて、また手伝いに来させていただけたらと思う。

 一度会ったことがあるだけの学生を1週間も受け入れてくれたマドリンさんを始め、夕食時を盛り上げてくれた旦那さん、よしださん、おかずを届けてくれた旦那さんのお母さん、楽しく会話し時にはご飯まで作ってくれた高校生の2人、直販を手伝わせてくれたサンタまるしぇの皆さん、素敵なおうちでおいしいご飯を出してくれたひろこさん、パウンドケーキを急きょ作ってくれたひでこさん、夏休みの貴重な時間に一緒に広尾町まで来てくれた友人など、たくさんの方のおかげで楽しい経験をすることができた。ありがとうございました。

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